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大阪地方裁判所 昭和39年(モ)988号 決定 1964年5月22日

申立人 中川徳松

右訴訟代理人弁護士 久保田美英

主文

本件忌避の申立をいずれも却下する。

理由

本件忌避申立の原因は別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、本件忌避の申立は忌避権の濫用である。

(一)  申立人らの主張する忌避の原因は、忌避の事由となる事情にあたらないことが極めて明らかである。

申立人の主張するところは、要するに当裁判所のとった弁論終結の措置を非難するに尽きている。しかしながら、弁論終結の措置が、なお口頭弁論の続行を要するとの申立人の見解に反したとしても、それだけでは各裁判官に裁判の公正を妨げる事情があるといえないことは、当第三民事部がしばしば判示してきたところである(例えば昭和三八年(モ)第一五四号裁判官忌避事件に対する同年一二月二四日決定、判例タイムズ一五六号参照)。

本件の場合、申立代理人が病気中であり、当第三民事部に係属する多数の受任事件の大部分については変更を許しながら、本件については変更を許さなかったのは不公平であると主張する。しかし、本訴について申立人から昭和三九年四月三日午前一〇時の口頭弁論期日の変更申請がなされた形跡はない。かり申立代理人が病気であったとしても、申立代理人は昭和三七年にも老人にありがちな病気を理由に一年近くも期日変更申請をくり返したことがあり、このような病気による長期にわたる出頭不能は期日変更についての顕著な事由ある場合に該当するものとは認め難い。このことは本訴についても昭和三七年九月二四日付文書をもって申立代理人に対して特に注意してきたところである。以上は記録上も明白であり、申立代理人が欠席のまま口頭弁論を終結したとしても、申立人の弁論の機会を不当に奪ったことにはならない。また、他の事件については弁論を終結しないのに、本訴についてはこれを終結したとしても、他の事件はなお裁判に熟していないのに、本訴は裁判に熟していると認められたことの結果にすぎないのであって、その取り扱いが区々となるのは当然であり、これをもって不公平な取り扱いということはできない。

次に、申立人は、控訴本人(申立本人)の死亡による受継手続が未了であると主張するが、本訴は訴訟代理人があるから、当事者の死亡による訴訟の中断はなく、また受継申立は口頭弁論終結後でもできるのであって、受継手続が未了であるからといって口頭弁論を終結できないものではない。申立人はさらに、係争土地建物の再検証と損害(額)についての証拠調べが残っていると主張するが、再検証はすでに取調べ、援用ずみであり、損害額の立証のため申立人が申立てた鑑定はすでに昭和三六年一一月一一日午前一〇時の第一九回口頭弁論期日において不採用の決定がなされているのであって、他に取調べ未了の証拠申出もないことは記録上明白である。申立人の右主張はなんらかの誤解であり、このことは、かえってなお弁論の続行を要するとの申立人の見解が単なる誤解にもとづくものにすぎないことを推知させるものである。

また、申立人は当裁判所を構成する各裁判官は、控訴人の新たな主張立証をまたずに控訴却下の裁判をするとの合議をして法廷に臨んだと非難するが、この非難が申立人の単なる独断にすぎないことは、本訴記録に顕われた訴訟経過からみても容易に認め得るところである。

以上のとおり、当裁判所のとった弁論終結の措置に対する申立人の非難は、いずれも明らかに理由のないものであり、右措置に裁判の公正を妨げる事情となるような顕著な訴訟法規違背ないし著しい裁量の逸脱がなかったことは明白である。

(二)  当第三民事部には、申立代理人が原告訴訟代理人となっている農地関係訴訟事件が多数係属し、裁判されてきたが、これらの事件について弁論を終結すると必ずといってよいほど、申立代理人より合議体を構成した裁判官全員、ときには裁判長のみについて、どの裁判官が担当しても本件とほとんど同じような理由で、理由のない忌避の申立がなされてきた。なるほど申立人はかつて忌避の申立をしたことはなかったかも知れないが、申立人から委任を受け、委任事務の処理として自らの判断に従い本訴の訴訟追行をはかってきた申立代理人はこのように理由のない忌避申立をくり返してきたのである。これにより訴訟手続が停止されそのために当該事件はもとより、他の一般訴訟事件に及ぼした訴訟遅延ははかり知れないものがある。

これらの事実は一件記録により明白であり、また裁判所に顕著である(前掲決定参照)。

(三)  以上の事実を総合して考察すると、本件忌避の申立は訴訟遅延を目的にするものであって、明らかに忌避権の濫用であると認めざるを得ない。

二、本件忌避の申立は当裁判所を構成する三人の裁判官各自に対してなされた三個の申立が併存しているものとみるべきところ、右各申立が忌避権の濫用であることはさきに判断したとおりであるから、民訴四〇条の適用が排除され、当裁判所は各申立につき各忌避された裁判官の関与のもとに裁判ができると解すべきである(前掲決定参照)。

なお、昭和三九年度大阪地方裁判所事務分配裁判官配置開廷日割および代理順序八条は民事の忌避事件についてその裁判官所属の部以外の部に事件を配付すべき旨を定めているが、この定めは一般の忌避申立事件のことを定めたもので、本件のように忌避権の濫用にわたる事件を予測して定められたものではないから、本件を当裁判所がみずから裁判することを禁ずる趣旨ではないと解すべきである。(右規程は刑訴二四条の適用される刑事事件についても一七条に右八条と同様の規定を置いているにすぎない。)

三、以上のとおりであるから、当裁判所は、申立人らの本件各忌避の申立をいずれも忌避権を濫用した不適法な申立として却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 平田浩 裁判官井関正裕は転所のため署名押印できない。裁判長裁判官 前田覚郎)

<以下省略>

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